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強誘電性および液晶性の両方を併せ持つ強誘電性液晶が注目を集めています。これまで不揮発性メモリや非線形光学材料への応用が期待されて様々な強誘電性液晶が開発されてきましたが、キラリティーや屈曲構造を組み込むなど高度な分子設計が必要不可欠でした。そこで本研究では、スピンクロスオーバー(SCO)錯体に着目し、複雑な分子設計を必要としない、新たな強誘電性液晶の創製を目的としました。SCO錯体は、低スピンから高スピンへのスピン状態変換に伴い結合長の伸長・構造歪みが生じます。本論文では、この高スピン状態における構造歪みを利用することで、SCO現象を起源とする強誘電性液晶の開発に成功しました。本結果は、SCO錯体の液晶化という極めてシンプルな手法で強誘電性を創出することが可能であり、強誘電性液晶材料の開発に向けて新たな設計指針を提唱します。


(a) [Fe(3C16-bzimpy)2](BF4)2の単結晶構造 
(b)結晶-液晶相転移に伴うSCO現象を駆動力とした強誘電性

Chem. Sci., 2019, 10, 5843-5848.

亜鉛は安価で豊富な資源であるとともに高輝度な発光特性を発現可能であることから、希少金属に替わる材料として注目されています。しかしながら、固体状態で高効率な発光特性を示す亜鉛錯体の報告例は少なく、またそのほとんどが配位子内(LC)遷移に帰属される発光を示すため、重原子効果による項間交差の促進、およびそれに伴う燐光の発現が極めて難しいという問題を抱えています。本研究では、多核化により熱的・光的安定性を増加させることで、固体状態で高効率な青色発光(λmax = 416~429 nm, Φem = 0.09–0.36)を示す亜鉛クラスター[Zn4L43-OMe)2X2] (X = SCN, Cl, Br)、[Zn7L63-OMe)23-OH)4]Y2 (Y = I-, ClO4-)の合成に成功しました。また、重原子であるヨウ素をカウンターイオンとすることで、CH-I相互作用による外部重原子効果を利用した燐光(λmax = 520 nm, τ = 95.3 ms)の発現を初めて達成しました。LC遷移を発光起源とする金属錯体における燐光の発現への、極めて重要な設計指針を提唱しました。


(a) 四核、七核亜鉛クラスターの単結晶構造 
(b)[Zn7L63-OMe)23-OH)4]I2の発光スペクトル

Chem. Eur. J., 2019, 25, 1-6.

複数の異種金属イオンからなる異種金属錯体は、適切な組み合わせにより磁気的相互作用を自在に設計することが可能であるため、磁気クラスターの磁気特性制御における非常に有用なアプローチの一つとして知られています。本研究では、依然我々が報告した強磁性的磁気挙動を示すWheel型七核ニッケル(II)クラスターをベースとし、異種金属クラスター[Ni7-xMx(HL)63-OMe)43-OH)2]Cl2 (M = Zn, Co, Mn; x = 1, 3)を合成することで、その磁気特性の制御を試みました。Mn(II)およびCo(II)イオンを用いることで、基底スピン状態の制御ならびに単分子磁石挙動(SMMs)の発現に成功し、また、反磁性イオンであるZn(II)イオンを用いた異種金属クラスターの磁気的相互作用を詳細に評価することによって、通常のX線構造解析では区別不可能な、異種金属イオンの配置についても明らかにしました。


Dalton Trans., 2018, 47, 16422-16428.

コバルトや鉄の錯体が示すスピンクロスオーバー(SCO)現象はその中心金属周りの配位環境に起因しており、一般的に低スピン(LS)状態では歪みのパラメータ(Σ)が小さく、高スピン(HS)状態ではΣが大きい事が知られています。本研究ではSCO現象を示すコバルト(II)錯体[Co(Naph-C2-terpy)2](BF2)2·2MeOHを合成し、脱溶媒に伴う配位環境の歪みの変化が磁気特性に及ぼす影響の考察を行いました。脱溶媒後の[Co(Naph-C2-terpy)2](BF2)2はコバルト(II)錯体のLS状態において類の無い非常に歪んだ配位環境を有しており、コバルト(II)錯体において例の少ない急峻なSCO現象を発現しました。


Dalton Trans., 2018, 47, 13809-13814.

金属錯体の示す磁気特性は錯体の結晶構造に起因しており、用いる配位子の設計やカウンターアニオンの種類を変えることで様々な錯体の磁気特性が報告されています。特に分子デバイスの観点から外部因子による物性の制御が注目されており、光やガスなどによる磁気特性制御が試みられています。本研究では二核鉄(III)錯体のスピンクロスオーバー(SCO)現象の制御を試みました。SCO現象を示す錯体[Fe2(salten)2(Bipytz)](BPh4)2に対して’ポストシンセシス法’を用いた化学修飾を行うことで、通常の合成ルートでは得ることの出来なかった錯体の合成に成功し、SCO挙動の変化を得ることに成功しました。


(a) [Fe2(salten)2(Bipytz)]2+の結晶構造 (b)ポストシンセシス法による化学修飾

Z. Anorg. Allg. Chem., 2018, 644, 729-734

Salen配位子は、その化学修飾の容易さから多くの誘導体が存在し、また配位する金属イオン種によって様々な機能を示す。本研究では、Salen配位子のエチレンジアミン部位にメチル基を導入したSalmmen配位子に着目し、長鎖アルキル鎖を導入することで屈曲したバナナ型構造を有する[M((X)-4-C18-salmmen)] (M = Zn(1) and Pt(2), X = R, S and rac)を合成した。Zn錯体は液晶性を示し、液晶相において強誘電ヒステリシスが観測された。Pt錯体は液晶性を示さないが、長鎖アルキル鎖の運動、揺らぎに起因して強誘電ヒステリシスが観測された。また、各錯体は蛍光を示し、発光特性を持ち合わせた強誘電性液晶材料の開発に成功した。


(a) Structures of [M(X-4-C18-salmmen)] (M = Zn (1) and Pt (2), X = R, S and rac).
(b) Temperature-dependent P- E hysteresis curves for 1-rac.
(c) Absorption (black line) and emission (red line) spectra of 1-rac.

Dalton Trans., 2018, 47, 14288-14292.

有機配位子と金属イオンの集合により構成され、内部に包接空間を有する分子カプセルはその空間を利用することにより優れた分子認識・分離能力、触媒としての反応場、DDSシステムの構築等、基礎から応用まで幅広く研究されています。これまで分子カプセルの設計としてカプセル骨格の頂点に単核の金属イオンを用いた例が主に報告されていますが、構造内に多核コアを含む分子カプセルの合成は物理的性質(磁性、触媒等)の側面から興味が持たれますが、設計上難しいことからその報告例は極めて少ないです。本研究では、salicylamide誘導体にalkyldiamineを導入した配位子用いNi(II)と反応させることによって、二つの4核cubane骨格を含むカプセル型分子の合成に成功しました。またゲスト分子として様々な大きさのカウンターアニオンを用いることにより、Ni間に働く磁気的相互作用を変化させることを明らかにしました。


Dalton Trans., 2018, 47, 9575-9578.

本論文ではカウンターアニオンに芳香環をもつ化合物を用いることでSCO現象の発現に成功した4種の鉄(Ⅲ)SCO錯体、 [Fe(qsal)2]BS·MeOH·H2O (1)、 [Fe(qsal)2](NS)·MeOH (2)、 [Fe(qnal)2](NS) (3)、 and [Fe(qnal)2]PS·MeOH·CH2Cl2 (4) (Hqsal, N-(8-quinolinyl)salicylaldimine; Hqnal, N-(8-quinolinyl)-2-hydroxy-1-naphthaldimine, BS, benzenesulfonate; NS, 1-naphthalenesulfonate; PS, 1-pyrenesulfonate)を報告しました。さらに1、3、4の錯体においては808 nmの光を照射することで低スピン(LS)から高スピン(HS)へトラップされるLIESST現象も観測されました。特に1の錯体は約59 %の電子がLS状態からHS状態へと光励起されており、この割合はこれまでに報告された同様のカウンターアニオンを持つ鉄(Ⅲ)錯体と比較すると最も高い比率を示します。


(a) [Fe(qsal)2]BS·MeOH·H2Oの単結晶構造および (b)SCO、LIESST現象による磁気挙動の変化

Inorg. Chem., 2018, 57, 2834-2842.


MRIとは体内に存在するプロトン(H+)の緩和時間を読み取り、画像化することで、人体の断面を可視化する医療装置です。MRI撮影を行う際は、画像のコントラスを良くするために造影剤が使用されます。造影剤を体内に取り込むと、造影剤の不対電子とプロトンの間に双極子―相互作用が生じ、プロトン緩和時間を促進させることが可能です。そしてその結果として、より高明度なMRI画像を得ることができます。本論文では様々な不対電子数をもつ金属錯体を用いて、磁化率とプロトン緩和時間の相関を明らかにしました。


(a) 金属錯体のナノ粒子化および (b)χmT値とT2緩和時間の相関図

Chem. lett., 2018, 47, 598-600.

本研究ではGO面内に広がるπ共役に着目し、ベンゼンなどの芳香環にスルホ基を付加したスルホン酸誘導体をGOの層間に導入することで、π-π相互作用によりスルホン酸誘導体を GO 層間に安定して取り込み、プロトン伝導を促進することを目指しました。これによりGO層間が拡張することで水分子を取り込みスルホ基を介したプロトン移動で伝導性の向上につながります。得られた複合膜はスルホン酸誘導体によって水分子を層間に多く含み層間距離が広がっていることが確認できました。さらに、プロトン伝導度測定では通常の酸化グラフェンに比べてプロトン伝導度を大きく改善することに成功しました。


(a)層間に導入されたスルホン酸誘導体 (b)プロトン伝導度の湿度依存性

Chemelectrochem, 2018, 5, 238-241.


両親媒性分子の自己集合体は、疑似的な生体膜としての利用やDDSへの応用など生化学から材料化学まで幅広い分野で研究されています。膜の機能化という観点から金属錯体分子を頭部にもつ金属錯体脂質が数多く合成され、酸化還元応答や触媒能有する機能性リポソーム開発が行われてきましたが、アルキル鎖が集積した疎水部の特性に金属錯体脂質が与える影響についての検討は行われてきませんでした。本論文では、我々のグループで開発した金属錯体脂質(Dalton Trans. 2017)を用いて、DMPCと任意の割合で混合した新規複合リポソームを合成することで、金属錯体脂質の割合が大きくなるほど膜の曲率と相転移温度が上昇する一方、疎水部の粘性が低下することを明らかにしました。すなわち、錯体脂質を用いることで“膜表面は硬く膜内部は柔らかい”という特殊な物性を有する複合リポソームの合成に成功しました。


Chem. Commun., 2017, 53, 13249-13252.


グラフェン表面上に多くの酸素官能基を有する酸化グラフェンは熱や化学的還元により容易にグラフェン様な還元グラフェンとなりますが、この際還元グラフェンの層間距離は酸化グラフェンに比べて大きく減少することが知られています。我々はこの還元によって層間距離が変化することでシート内圧力が変化することを初めて見出しました。外場から熱処理のみで圧力をかけることが可能であり、 また還元温度により内圧の制御が可能である非常に珍しい例であり、ナノ空間でのナノコンプレッサーとしての応用に期待が持てます。


(a) rGOによる圧力効果および (b)rGO層間距離と圧力の相関図

Sci. Rep., 2017, 7, 12159.


材料の劣化やクラッキングと大きく関わっている物質の熱膨張は、素子の安定性や作動温度領域を決定する物性であり、その熱膨張挙動の理解と制御は重要な課題である。本論文では、[MnN(CN)4] と [Mn(salen)] から組み上がるジグザグ構造有する二次元配位高分子に着目し、二次元シートに配位している溶媒分子種により”膨張”と”収縮”を変換可能であることを報告しました。詳細な解析により、シート内に存在する [Mn(salen)] ユニットの構造歪みが熱応答の起源であり、歪みの方向が熱膨張の方向を支配していることを明らかにしました。更に、その固溶化により単一材料中での膨張と収縮が相補的に働くことによる面内のゼロ膨張率材料の合成に成功しました。


Inorg. Chem., 2017, 56, 6225-6233.

多核構造を有する金属錯体は、その金属イオン間に働く磁気的相互作用から単核金属錯体とは異なる特異的な磁気挙動を発現することが知られています。さらにこのような多核構造と磁気的相互作用との相関に関する詳細な考察は、単分子磁石の開発等の観点から非常に有用であるとされています。我々は、3-メトキシサリチル酸誘導体を配位子として用いることで、強磁性的磁気挙動を示すCubane型四核およびWheel型七核ニッケル(II)錯体を合成することに成功し、その分子構造と磁気的相互作用との詳細な相関関係を明らかにしました。


(a) Cubane型四核および(b) Wheel型七核ニッケル(II)錯体の単結晶構造と強磁性的磁気挙動

Dalton Trans., 2017, 46, 8555-8561.

本研究では、アルキル鎖を付与したターピリジンコバルト錯体とグルタミン酸をベースとした脂質アニオンを複合化することで、アルキル鎖の偶奇に依存した集積構造を示す金属錯体超分子の構築に成功しました。超分子構造は、アルキル鎖の炭素数が15以上の場合のみにおいて観測され、炭素数の偶奇に応じて2種類の超構造体(奇数:ワイヤー, 偶数:ロールシート)を形成することが明らかとなりました。また、全ての化合物でスピンクロスオーバー現象(SCO)が観測され、機能性金属錯体の超構造体の構築に成功しました。


(a) [Co(C15-terpy)2](C12-Glu)2(奇数)および(b) [Co(C16-terpy)2](C12-Glu)2(偶数)のTEM画像

Chem. Commun., 2017, 53, 4685-4687.

固体状態での電気化学特性の制御は分子デバイスに向けて重要な課題ですが、金属錯体の分子構造と酸化還元電位の相関を詳細に明らかにできた例はほとんどありません。本論文では、傘型の構造有する五配位錯体 [MnV(N)(CN)4]2- を用いて4種類の金属錯体脂質を合成し、親水部に位置するMn錯体の構造と固体状態での電気化学特性を調べることで、”傘の角度”が小さくなるにつれて、酸化還元電位が上昇するという相関関係を明らかにしました。得られた相関は、五価六価間の構造相転移のエネルギーの違いを反映していることがDFT 計算から分かりました。


(a)金属錯体脂質の集積構造,および(b)配位角度と酸化還元電位の相関

Dalton Trans., 2017, 46, 3749-3754.

本研究では、核酸塩基が示す分子認識能に着目し、塩基対形成を固体状態における金属錯体分子の集積構造制御の戦略として利用することを目的としています。アデニンおよびチミンを導入したターピリジンコバルト錯体、[Co(A-C6-terpy)2](BF4)2、[Co(T-C6-terpy)2](BF4)2を合成し、塩基の種類により異なる集積構造を示すことを明らかにしました。さらに、それら二種類の結晶をを混合することで、塩基対形成によりリング状の二量体を形成する[Co(A-C6-terpy)1.5(T-C6-terpy)1.5](BF4)2を得ました。この結果は、非対称構造を有するターピリジンコバルト(II)錯体の結晶化に成功した初めての報告です。


(a) [Co(A-C6-terpy)1.5(T-C6-terpy)0.5](BF4)2の単結晶構造、および(b) 塩基対形成を介したリング状二量体

Chem. Eur. J., 2017, 23, 7232-7237.

プロトン伝導体は、燃料電池に欠かせない材料であり、高いプロトン伝導度を示す固体電解質の開発が求められています。我々は以前、酸化グラフェン(GO)が高いプロトン伝導度を示すことを報告しました。(J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 8097-8100)しかし、実際にデバイスに応用するには、そのプロトン伝導性をより向上させる必要があります。我々は、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸(HPS)を酸化グラフェンの層間に挿入することによって、室温で約10-1 Scm-1という非常に高いプロトン伝導性を有する酸化グラフェンハイブリッド体の合成に成功しました。このプロトン伝導性の向上は、HPSがGO層間を広げ伝導パスを広げるとともに、HPSによってより多くの水分子を層間に保持することができたためであるということが分かりました。


(a) Single crystal structures and (b) temperature dependence of magnetic susceptibilities.

Chem. Asian J., 2017, 12, 194-197.

キラル化合物である[Fe((R )-L)2(NCS)2] (1)、[Fe((S )-L)2(NCS)2] (2)、およびラセミ体の[Fe((R, S )-L)2(NCS)2] (3)を合成しました (L = α-methyl-N –(2-pyridinylmethylene)-cyclohexanemethanamine)。すべての化合物1-3においてスピンクロスオーバー現象(SCO)が観測されました。 その中で、互いに鏡像異性体である1と2はほぼ同じ挙動であったのに対し、3はこれらよりも急峻なSCOを示すことが分かりました。メスバウアー分光法による詳細な解析の結果、分子のキラリティが減少することで、低スピンの寄与が大きくなっていることが分かりました。


(a) Single crystal structures and (b) temperature dependence of magnetic susceptibilities.

EUR. J. Inorg. Chem., 2017, 1049-1053.

コバルト-鉄プルシアンブルー類縁体は電荷移動誘起スピン転移(CTIST)を示す磁気機能性化合物として報告されています。しかし、水などのゲスト分子が磁気挙動に与える影響については明らかにされていませんでした。我々は、Na0.46Co[Fe(CN)6]0.78(H2O)1.31の単結晶X線構造解析に成功し、欠陥のあるコバルトサイトの配位水の存在を初めて確認しました。また、その磁化率測定から、水分子に依存するCTIST挙動を示すことを明らかにしました。


(a)Na0.46Co[Fe(CN)6]0.78(H2O)1.31の単結晶構造及び (b)水分子の吸脱着による磁気挙動の変化

Dalton Trans., 2016, 45, 16784-16788.



Chem. Asian J. 2016, 11, 2322-2327.    


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